「幽霊の正体見たり枯尾花、ですか。」
「なんだ、それは。」
「昔からあることわざです。」

幽霊の正体見たり枯尾花。
幽霊が出たと驚けば、その正体は風に揺られた枯れススキの影。

「まあ、怯えた心でいると、本当は恐ろしくないものまで恐ろしく思える、ということですね。」
「くだらん。」
「はは。でも、わたしも小さい頃は、風で擦れ合う木の葉の音に、よく怯えていたんですよ?」
「勇者がそれでいいのか?」
「勇者だって子供だったんですから、仕方ないじゃないですか。」
「そういうものか…」
「でも確かに、今考えると、少し格好悪いですね。私がまだ子供だった頃は、もうハドラーは、
木の葉の音なんかに怯えたりしない立派な大人だったんですから。未来の勇者失格です。」
「……」
「どうしたんですか?」
「いや…何でもない……」

幽霊の正体見たり枯尾花。
木の葉だと知って怯える元勇者。

「……あの、本当に大丈夫ですか?どこか具合でも?」
心配そうなアバンの声に、ハドラーは内心、しまったと思いながら、左手で顔を覆い、空いた右手を、大丈夫だと軽く振る。
しかし、普段と様子の違うハドラーの様子にアバンの心配が晴れるはずもなく、ますます心配そうな顔をする。
それでも、アバンはもう木の葉に怯える子供ではなく、ハドラーが大丈夫だと言い張るから、それ以上、追求したりはしない。
本当に、木の葉に怯えた子供は、すっかり立派な大人になっていて、ハドラーは更に追い詰められる。
ちらりと窺ったアバンの後ろに、もう一つの《アバン》の姿がちらついて離れない。
ああ、まったく自分は

「あの…じゃあ、そろそろ風も出てきましたし、戻りませんか?」
「……ああ、そうだな。」



幽霊の正体見たり枯尾花。

擦れ合う木の葉の音に怯える恋人の姿を見てみたかった、なんて
本当にもう、それこそ魔王失格。(元だが





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季節外れネタじゃんじゃない。季節先取りネタなんだ。(同義
拍手用に書き始めたんですが、微妙な長さになったので、コチラに。
さーて、あと一つで大御所です。