日生光宏は思った。

小鉄がいるなら、まあ、いっか。

光宏の父親は普通のサラリーマンだ。
普通のサラリーマンであり、能力はぴか一のサラリーマンであった。
どれくらいのぴか一さというと、光宏の父親が配属された会社は、たった数年で、赤字が黒字に転換するくらいのぴか一さだった。
そんな光宏父が、勤めている会社内で引っ張りだこにされるのは当然であった。
そして、その会社が日本全国に支社を持っているのならば、転勤の回数が人より多いのも当然であった。
だから、そんな人間の息子が、人より多い転校回数を誇ることになるのは必然だった。
保育園、小学校、中学校と、いったい、今まで何度、転校を繰り返したことだろう。転校の最短期間は、三ヶ月だ。
だから、光宏の部屋は、いつだって、物が少ない。
引越しの時に面倒だからだ。
だから、光宏には親友がいなかった。
共に過ごせる時間が少なすぎたからだ。
しかし、今は違う。
光宏の部屋は、相変わらずの様子であるが、後者の方は、違うのだ。
見つけたのだ、光宏は、鉄平を。
鉄平は、いつだって楽しそうに笑っていて、何が良いことがあれば、真っ先に光宏に報告にやってくる。
光宏に良いことがあれば、一緒になって喜んでくれる。
そして、言うのだ。
「俺たちって最高の親友だよな!」
それが、どれほど光宏を喜ばせているのか、鉄平は知らない。
また、いつものように転校が決まった時、思わず、泣いてしまったくらいに。
東京選抜として参加していた鉄平に、東北選抜の光宏は再会を果たすことができたけれど、それでも、選抜が終われば、それまでだった。
光宏は、東北に。鉄平は、東京に。
離れて暮らすことが、こんなに不安だなんて、光宏は初めて知った。
だから、たとえ、今日、午後から選抜の練習があって、サボったりしたらコーチからの拳骨は確実で、むしろ、それだけで済めばいいんだけど、と心の中では思っていたとしても、鉄平と再会できたのだから、光宏はどんな非常識な状況でも大歓迎だった。
アクエリを買う為に、レジに立つ店員の姿をガラス越しに眺めながら、コンビニのガラス扉を押し開けた瞬間、店員の姿が掻き消え、代わりに、誰もいない見知らぬ部屋に放り出されたときは、さすがに混乱したが、しばらくして、同じように、たった一つしかない扉から鉄平が現れてくれたから、光宏は不安も混乱も忘れて、大喜びで鉄平の元に駆け寄ったというわけだ。

「久しぶり!小鉄!」