| 小岩鉄平は泣いていた。 それを前にして日生光宏は笑いを堪えるので一生懸命だった。(口の端が若干ヒクヒクしているのは見逃していただきたい。実際、目の前に慣れない正座をしている小鉄は気づいていないのだから。 今日は二月十四日。 世の男たちにとって、決して小さくはない影響をもたらす日である。 特に中学生男子にとってのこの日は、所謂「勝ち組」と「負け組」が眼に見える形となって峻別される日なのである。 しかして、広い世の中、例外というものは往々にして存在するものなのだ。 「そんなイイ奴が処刑されちまう時代があったんだなー…」 それが小岩鉄平であった。 小岩鉄平。列記とした中学生男子。注釈を加えるならサッカー馬鹿。 バレンタインがなんだ。チョコレートがなんだ。 なに?疲れた体にはチョコレートが一番?なら、週末の練習のおやつはチョコだ! そういう男であった。 「チョコレート?悪いな、今の俺にはサッカーしかないんだ。」的な硬派というわけでもない。 毎年毎年、「負け犬」の称号を本人知らぬ間に授けられているにも関わらず、実に有能なウイルスチェッカーが身近にいる為に、負け犬ゆえの迫害を受けたことがないので、この日の重要性を意識できていないだけに過ぎない。 ちなみに性別の違いで差別することなく、小鉄に近づくあらゆるウイルスを排除し続けるウイルスチェッカーであるが、自分に向かってくるウイルスには意外にも無頓着であり、むしろ「来るんなら来れば?」状態であった。 そんなわけで小鉄の本日の収穫はゼロであるが、光宏の方はなかなかであった。 そして、「おやつに持ってくんなら、これやるよ。」とその収穫の一部が小鉄に回されていることなど、やはり本人は知る由もないのである。 それよりも小鉄は、禁じられた恋人を結びつけた故に処刑されたバレンタイン司祭に涙することで精一杯なのである。 『バレンタインの悲しき真実』 そう題されたテレビ番組を食い入るように見つめる小鉄。 傍らに置かれたティッシュボックスは、そろそろ空になりそうだ。 バレンタイン当日にまんまと小岩宅に転がり込むことに成功し、あまつ泊まりの許可まで獲得した光宏は、新しい箱ティッシュの収納場所をおばさんに聞きにいくべきか悩む。 普段はサッカー中継かお笑い番組くらいしか小鉄は見ないのに、チラリとでも見てしまったら止まらなくなってしまうのだ、この手のお涙頂戴ものは。 ナレーションの声がブラウン管から高々と響いた。 『そしてバレンタイン司祭が処刑されてしまった二月十四日が「愛の誓いの日」となったのです。』 「バレンタイン司祭バンザイ!!!」 こうして、小鉄と光宏のアンオーディナリー的バレンタインは更けていくのである。 ちなみに 「なあ、世界的に二月十四日が愛の誓いの日なら、一個もチョコ貰ってない俺ってヤバイんじゃねーか?クラスでも貰ってる奴らいたし。」 「愛を誓う日なら別に男女じゃなくたってイイんじゃないか?ほら、小鉄。チョコレート。」 「おお!サンキュ、光っくん!」 という会話が可愛い一人息子の部屋から聞こえてきてしまい、「気になることはすべて汚れと一緒に風呂で流しちまうのが一番だよな。」と呟きながら廊下を通り過ぎる父親の姿は、バレンタイン司祭よりも涙を誘うものであったことを付け加えておく。 >>> 書いている間に何度か「あれ?小鉄ってわたし?あれ?」という錯覚に襲われました。 そして、そろそろ光宏も我がホームページに侵食されてきたなあと思いました。 前回のハイライト 『でも、間違いなく、うちのホームページでハドラーに次いで度量が大きいのは光宏です。』 都合が悪いため反転です。 |