午後にはサッカー部の練習があったのに、結局、小鉄は戻ってこなかった。
どんなに下手くそでも練習だけは決して休まない小鉄がいなかったから、みんなはとても不思議がっていた。
サボりか、なんて言い出す奴は一人もいない。
だって小鉄はサッカーに対して(だけは)真面目だったから。

いつも小鉄とつるんでる俺にみんな理由を尋ねたが、俺はなんにも知らない顔をして「さあ。」って答えた。
でも心臓はどきどきと早鐘を打ち、今にも心不全で倒れてしまいそうなくらいだった。
とんでもないことをしてしまったのだと、俺はもう分かっていたんだ。


いつもは小鉄と一緒に帰る道のりを今日は一人で歩く。
長く延びた一つきりの影が無性に寂しい。
自分で蒔いた種なんだから、寂しいだなんてお門違いだけど、寂しくてたまらなかった。
とぼとぼと帰る道のりは嘘みたいに静かで薄暗かった。冗談でもなんでもなく、世界が沈んでみえるんだ。

そのくすんだ世界に見慣れた公園が侵入してきた。
わんぱく公園なんて名前を持ってるくせに、遊具はブランコと砂場しかないチャチな公園。
昼間は子どもを連れたお母さんたちで溢れているけど、こんな時間じゃ誰もいやしない。
時間潰しにさえならないような場所なのだ。
それなのに

「……小鉄。」
公園の隅っこにあるブランコにぽつんとお前は座ってた。
お前がちょっと動くたびに、寂れたブランコはキィキィと軋んだ音をたてる。
その寂しげな音がまるで俺を責めているようで、俺の心臓はまたぎゅっと小さくなった。

世界が三つだけになったみたいな錯覚。
ブランコの音と、お前と俺と。
それ以外、全部閉め出されちゃったみたいに奇天烈な感覚。
一歩踏み出す。
そして閉鎖された空間に新たに飛び込んできたもの。
公園のポールだ。
自転車が入れないようにか、チェーンがじゃらんと垂れ下がっている。まるで俺を拒んでるみたい。
それとも小鉄を守ってるのか?

俺が近づけないように?

泣きたくなった。


がしゃんっっ


チェーンを飛び越え、一目散にブランコへ。
お前が逃げないように、両の手でブランコの鎖をそれぞれ握りしめた。
ブランコと鎖と俺の両手と体。
その檻の中から、お前は逃げ出せない。
急に現れた俺に、地面をぼんやりと眺めていたお前は、驚きに目を見開いて俺を見た。

世界が閉じる。
だって、こんなに今は近い。

「……今日、エイプリルフールなんだけど。」
「は…?」
「なんで分かんないだよ。大嫌いだなんて、嘘に決まってるじゃん。今日が何月何日かくらい、小鉄がいくら馬鹿だって覚えてるだろ?」
マシンガンみたいに言葉をぶつける。
優しくなんかない。
むしろ、ちょっと馬鹿にしてるみたいな口調。
「なんで気付かないんだよ。」
責めた。

「……ごめん。」
呆然とした顔でお前はぽつりと呟いた。
まるで意識せず、その口から零れ落ちてしまったような様子に、俺は眉をしかめる。
「小鉄?」
「そっか…今日ってエイプリルフールなんだ。俺、馬鹿だから、そんなことすっかり忘れてて。そっか、エイプリルフールなのか。そっか、そっか…」

「………大っ嫌いって嘘だったんだ。」

安堵と苦しさと苦しさと苦しさと
きっとそんなものがぐちゃぐちゃに混ざりあったような、そんな顔をして
お前は。

「よかった……。」

呟いた。


「  ご  め  ん  な  さ  い  !  !  !  」

俺は叫んだ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」
嫌いだなんて言ってごめんなさい。
お前がそんなに傷つくだなんて思っていなかったんだ。
遊び心のつもりだったんだ。
お前がどれだけ俺を好きかって試してみたかっただけなんだ。
そんなくだらない理由しかなかったんだ。
ついていい嘘とそうでない嘘があるって、そんな当たり前のことすら俺は気付かなかったんだ。
お願いだよ。
お願いだよ。
「俺を許して。」
ごめんなさい。
いくらだって謝るから、お前を傷つけた俺を嫌いにならないで。

「光っくん…。」
泣きたくなった。
なんで、そんな優しい声をだすの。
お前が逃げないように作った檻は、そのまま俺にも立ち塞がってきて、俺の情けない顔をお前から隠すことができない。


「許すとか、なんでそんなこと言うんだよ。俺は怒ってなんかねーのに。ただ怖かっただけなんだよ。」
光っくんがなくなってしまうって、そんだけが怖くて仕方なかったんだよ。

とうとう俺は泣いてしまった。



あーあ、4月馬鹿って俺のことじゃん。